この記事の監修者
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フランスベッド
メディカル営業推進課
課長 佐藤啓太福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーター2級、福祉用具プランナー、
社会福祉主事任用資格、知的障害者福祉司任用資格、児童指導員任用資格、
可搬型階段昇降機安全指導員、スリープアドバイザー
認知症の妄想について、代表的な症状や妄想が起きる原因、治るかどうかや、なった場合の対処方法、支援について具体的に解説します。
2024年5月17日
認知症による妄想とは、事実でないことを現実に起きたことのように信じ込んでしまう認知症の症状のひとつで、症状は数か月から1年以上、もしくはいつまでも状態が続くこともあります。認知症である本人は事実として本当に起きたことのように信じ込んでいるため周りの人に訴えてきますが、それが実は妄想であり、事実でないと説得してもどうしても受け入れられなくなってしまいます。認知症の妄想の中には代表的なものとして「被害妄想」や「幻覚」「物盗られ妄想」などいくつかの症状があります。
ではなぜ、認知症によって妄想が起きてしまうのでしょうか。その原因はひとつではありませんが、背景には認知症の症状に対する苦しみや不安、焦り、寂しさなどがあると考えられています。家族に世話になっていることに感謝をしながらも負い目を感じたり、自尊心を傷つけられたり、悲しさを引きずるなどその人が持っている様々な感情が複雑に絡まり合って、症状として現れているのかもしれません。妄想の種類は認知症の症状によっても違ってくることがあります。
アルツハイマー型認知症の場合は被害妄想がよく見られます。被害妄想は家族など周囲の人の言動がきっかけで引き起こされるといわれています。例えば、食事の席で自分の知らない内容で会話が盛り上がっていると、話についていけないことに対して強い孤独を感じて、もう誰も自分を相手にしてくれないという妄想に発展することがあります。家族やヘルパーなど身近な人を妄想の中で加害者にしてしまうことが多く、本人に悪意はなく無意識に親しい間柄の人に疑いをかけてしまいます。自分自身の行き場のない感情を周囲に訴えたいという思いから、被害妄想を引き起こしてしまいます。加害者にされたり疑われる家族にとっては辛いことですが、本人には自分の気持ちや感情を必死に訴えたいという思いがあることを理解してあげましょう。
レビー小体型認知症の場合は幻視や見間違いといった症状が多く見られます。脳の後ろ側(後頭葉)の血流が悪くなることで引き起こされるといわれ、実際には存在しないものがリアルに見えることもあれば、ハンガーにかかっている衣服を人や動物に見間違えるなど見え方や見えるものは人によって様々です。
幻視は、物忘れの症状が軽い人によく見られ、時間が経っても見えたものをしっかりと覚えているケースが多いです。日常生活において誰でも見間違いはありますが、レビー小体型認知症の人は見間違いの頻度が多く、目に入ったものを全く違うものとして認識したり、物体がゆがんだり曲がったりして見えることがあります。
―認知症の症状についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「認知症の症状一覧種類や進行段階、速度、早期発見のコツを解説」
認知症による被害妄想で最も多いとされているのが物盗られ妄想です。しまい忘れや置き忘れの金品などを盗まれたと信じ込んでしまい、財布を盗まれた、高価なネックレスを盗まれたと身近な人を疑い周囲に訴えます。直接介護に関わる家族やヘルパーが泥棒扱いされるケースが多く、普段から良い関係を築いている間柄でも加害者の対象になることがあります。こうした症状は、認知症による記憶障害を認めたくないという気持ちが原因で引き起こされると考えられています。財布を置き忘れたなどの記憶障害を認めることで周囲に役に立たない人と思われることを避けるために、盗まれたと考えるようになりその考えが物盗られ妄想へと変わっていきます。
見捨てられ妄想は、世話をしてくれる家族に迷惑をかけていると負い目を感じ、自分は家族にとって邪魔な存在だという思い込みから見捨てられたという妄想に発展していきます。認知症の症状が進行し、自分ひとりでできないことが増えると、ますます負い目を感じるようになります。
例えば自分以外の家族だけで出かけたときに、自分は家族に必要とされていないと思い込み深い孤独を感じるようになります。
見捨てられ妄想によって家族を信用できなくなると、部屋にひきこもりがちになり、体を動かしたり、コミュニケーションをとったりする機会が減少して認知症がさらに進行してしまう恐れがあります。
見捨てられ妄想がみられる場合は、本人が無理なくできることや得意なことをお願いして自分も役に立つ存在だと感じてもらえるようにしましょう。
幻覚には、幻視、幻聴、幻臭、体感幻覚などがあります。
三大認知症のひとつであるレビー小体型認知症の人に多く見られるのがこの中の幻視です。例えば、暗い場所を指差してあそこに誰かがいるなど、実際にはないものが実在するものとして見えるようになります 。いるはずのない虫や小動物、人などが見えるのが一般的で、動きを伴うことが多いとされています。見えるものは人によってそれぞれ異なり、人物の顔を特定できることもあれば、顔がはっきり見えないこともあります。症状が現れると、突然怯えたり興奮したりすることがあります。症状が進行すると暴力や暴言、夜中に大声を出す、物を破壊するなどの行動が見られることもあります。
その場にいない人の声がはっきり聞こえる幻聴、虫が背中を動き回っているように感じる体感幻覚が現れる場合もあります。
見間違い(錯視)も、レビー小体型認知症の人によく見られる症状です。壁紙の模様が人の顔に見えたり、小さなゴミが虫に見えたり、頻繁に見間違いをします。物体がゆがんで見えたり、傾いて見えたりする変形視も症状として現れます。
こうした症状は室内環境が影響していることが多くあります。幻視や見間違いは暗い場所で起こりやすいので、部屋の明るさを統一してできる限り影をなくすとよいでしょう。他にも衣服を壁にかけないようにする、模様の多いタオルや壁紙をシンプルなものに変えるなど、室内の環境を整えて幻視や見間違いを減らす工夫をすることが大切です。
嫉妬妄想は配偶者が浮気をしていると誤解して信じ込む妄想です。例えば、ヘルパーに介護について相談している様子を見て、ヘルパーと浮気をしているなどと思い込んだりします。見捨てられ妄想と同じく自分は必要とされていないと思い込み、不安や孤独を感じることが原因と考えられます。日頃からコミュニケーションをしっかり取り、大切な存在であることをきちんと伝えるようにしてあげましょう。
対人関係にまつわる妄想では、家族やヘルパーに暴言を吐かれた、暴力を振るわれたなどの被害妄想をすることがあります。悪口を言われた、のけ者にされたと思い込むこともあれば知らない人が家に入ってきたなど妄想の現れ方は様々ですが、実際に起きた出来事ではないものの、詳細を聞くと状況などが生々しいことが多いといわれています。認知症の症状であることを知らない第三者が訴えを聞けば、介護している家族が虐待していると疑われてしまい、警察沙汰になることもあるため、虐待のような被害妄想をしはじめたときは、すぐにケアマネジャーなどに相談しましょう。
迫害妄想とは、誰かに狙われている・私をつけまわして危害を加えようと企てているなどのように、誰かに攻撃されていると訴える妄想のことをいいます。見ず知らずの人に狙われていると訴えることもあれば、家族が邪険に扱ってくる、ヘルパーに殴られたなど直接的に攻撃されたように話すこともあります。少し離れたところで家族が話す姿を見かけただけで私に隠れて何かを企てていると誤解して妄想に発展することもあります。妄想であることを知らずに話を聞いた人は、本当に虐待や事件が起きていると誤解してしまう恐れもありますので、このような症状が現れたときは、どんな言動があったかをメモとして残しておき、主治医やケアマネジャーにも共有するようにしましょう。
事実ではない訴えでも否定せず、本人の訴えに真摯に向き合いましょう。
妄想の中で盗みや浮気などの加害者にされる家族はとても辛く、否定したくなると思いますが、本人にとっては妄想の出来事が事実と信じ込んでいるため、周りが否定することで混乱してしまいます。また、否定されたことに対してさらなる怒りや悲しみが生まれ、妄想がひどくなることもあります。この人に訴えても伝わらないと感じて様々な人に訴えだすこともありますので、否定せずにじっくり話を聞いてあげるようにしましょう。
非現実的な内容であったとしても共感しながら話を聞き、受け入れてあげましょう。そうですね、それは大変ですねなどと本人の気持ちに寄り添いながら話を聞いてあげることで、私の気持ちをわかってくれるという信頼や安心につながります。また、本人の話を聞いているうちに妄想の背景にある感情や本音が見えたり、今後の介護につながるヒントを見つけたりすることもありますので、本人の訴えに隠されたメッセージに気づくためにも、共感しながらしっかりと話に耳を傾けるようにしましょう。
介護を1人で抱え込まず、誰かに相談するようにしましょう。
認知症の症状であるとわかっていても、暴言を吐かれたり、疑いの目で見られたりすると介護者にとって大きなストレスになります。こうした精神的な負担から介護する側が介護うつを引き起こすなど体調を崩してしまうケースがあります。周りに知られると恥ずかしいと思って1人で抱え込んだりせず、悩みは家族や親戚、友人などに相談しましょう。医師やケアマネジャーなど医療や介護の専門家に相談すれば、新しい発見やアドバイスがあるかもしれません。
また、同じ悩みを抱える人たちの家族会や勉強会が開催されていることがありますし、最近ではインターネットを利用して同じ境遇の人たちと交流できる掲示板やコミュニティサイトなどもあります。参加者と話をしたり交流したりするだけで気持ちが落ち着くこともありますので利用されるのもよいでしょう。
あまりにも妄想がひどく、介護する側に極度の負担がかかっている場合は、少し距離をとるのもひとつの対応方法です。
介護を別の人に代わってもらう、介護施設やショートステイの利用、病院への入院を検討するなどして、物理的にも精神的にも適度な距離をとりましょう。ケアマネジャーや医師などと相談し、本人と介護する家族にとって適切な方法を考えてみてください。
―認知症の方への対応についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「認知症の方との良い接し方は?家族がなってしまった際の対応・介護のポイントを解説」
認知症の妄想・作り話の基本的な対応の仕方は前述したとおりですが、ここからは種類別の対応方法を紹介していきます。
誰かに物やお金を盗まれた、という物盗られ妄想が始まり、あなたが盗んだでしょ!といった疑いをかけられた場合は、肯定も否定もせず、まずは大切なものが見つからなくて困っているという本人の気持ちに寄り添いましょう。本人の訴えに共感しながら、盗られたと言っているものを一緒に探します。もし家族や周囲の人が本人よりも先に見つけた場合は、本人が自力で見つけられる場所にさりげなく置きなおし、本人に見つけてもらうようにしましょう。もし本人以外の人が先に見つけ、ここにあるじゃない!などと伝えてしまうと、あの人が盗んだのに見つけたふりをしている、と新たな妄想に発展することもあります。置き場所がわかったとしても、本人に見つけてもらうことが適切な対応方法です。
見捨てられ妄想の場合は、周りに迷惑ばかりかけている、自分は何の役にも立たないといった自信のなさや寂しさ、悲しみなどが根本にあると考えられます。自分も誰かの役に立つ存在だという自信を取り戻すきっかけをつくることや達成感が味わえるものに取り組んでもらうことがよい対応方法です。例えば、洗濯物を畳むなどの簡単な家事や、本人の得意なことを活かした作業を頼むなど、無理せずできることをやってもらいましょう。作業が終わった後は、ありがとうございました。おかげで助かりました。というように感謝の気持ちを言葉にして伝えるようにしましょう。周りから感謝されることで、自信や達成感につながり妄想も収まりやすくなるはずです。
幻覚・見間違いの場合は、本人の訴えに対して、そんなものは存在しませんと強く否定する、感情的に対応するなどは厳禁です。そのような対応は本人を混乱させることにつながりますので、さらに興奮させてしまう可能性もあります。周囲の人には見えないものであっても、本人にはしっかりと見えているということを理解し、受け入れてあげましょう。ほとんどの幻視は、近づく、触るなどすると消えるといわれるため、一緒に近づく、触ってみるのもよいでしょう。模様入りの壁紙やタオルは見間違いを引き起こす原因になるため、なるべくシンプルなものを使用するなど、原因となり得るものをできる限りなくすことも大切です。本人が安心して過ごせる環境を作ってあげるようにしましょう。
嫉妬妄想の原因は、見捨てられ妄想と同じで、頼られる存在でなくなること、自分の居場所がないと感じることが多いです。大切な人とのつながりがなくなる恐怖心から嫉妬妄想に発展していると考えられるため、日ごろから丁寧に接する、時間をかけて関わりを持つなどを意識して対応しましょう。また、本人が自信を持てるようなお手伝いをお願いしてみるなど、家庭内で何か役割を与えるのもよいでしょう。誰かに頼られること、人の役に立つことが自信につながって妄想が収まりやすいようです。配偶者に見捨てられるのではないかという不安から妄想に発展しているケースもあるため、一緒におでかけするという方法も試してみるとよいでしょう。
対人関係にまつわる妄想は、認知症の症状による不安や苦しみ、周囲への不満などが原因になっていることが考えられます。自分の気持ちを理解してほしい、もっと話を聞いてほしいといった感情が背景にある可能性があるため、コミュニケーションの仕方を見直してみましょう。しっかり目を見て穏やかな表情で話を聞き、丁寧に接することを心がけるなど、自尊心を傷つけないよう配慮することも大切です。 どのようなときに症状が現れるのかを探ると、周囲の何気ない言動がきっかけになっていると気付くこともあります。例えば、話し声が聞こえない距離から家族たちが会話する様子が見えて、悪口を言っているという妄想に発展しているかもしれません。きっかけが何なのかを考えて対応策を講じるようにしましょう。
迫害妄想の症状が見られる場合は、事情を知らない人に誤解されないよう、第三者にも症状のことを共有しておくことが大切です。家族や親戚、友人だけでなく、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員、かかりつけ医などに相談しておけば、警察沙汰になるといったトラブルも回避できます。介護をしているだけなのに加害者扱いされるのは、精神的ダメージが大きいので、。一人で抱え込まず、困ったら周囲に協力を求め、ストレス軽減のためにも精神的、物理的に適度な距離を保つよう心がけましょう。ショートステイを利用するなどして、介護者が息抜きする時間を確保するのもよいでしょう。ただし、もしかすると妄想ではなく真実である可能性もあるため、最初から何もかも疑うのではなく、慎重に対応することが大切です。
―認知症の介護ストレスについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「介護うつとは?特徴や原因、ならないための対処法をご紹介」
認知症の妄想は治るのでしょうか?
認知症の妄想には多くの場合、症状を緩和させるための漢方薬や向精神薬、そしてグルタミン酸を抑えて神経細胞を落ち着かせる働きがある、抗認知症薬のメマリーという薬が用いられており、早期に治療薬を処方してもらえば、妄想の症状が治ることや、認知症の進行を遅らせる可能性はあります。
ただし、レビー小体型認知症による妄想では、上記の治療薬を使用する場合もありますが、薬の影響を受けやすい病気のため種類によっては悪化する可能性があり、服用量について慎重にならなければいけません。いずれにせよ治療薬は医師の指示に従い、必ず定められた量を服用するようにしましょう。
認知症が進行すると、介護をする側の負担が大きくなることが考えられますので、介護においては、専門家の力を借りることが、本人や家族にとってストレスを溜めない方法といえるでしょう。そのため、今後どのような支援を受けられるのか、地域包括支援センターで、介護施設や病院、介護サービスなどの紹介をしてもらうなどしっかりと確認をしておく必要があります。かかりつけ医がいる場合は、まずはそこに相談し、医師同士のつながりから、より大きな医療機関や認知症疾患医療センターなどで、適切な診断ができるよう取り計らってもらえることもあります。また、日々の生活や費用についての支援は、自治体の窓口で対応をしてもらえます。要介護認定と診断されれば、介護保険を利用して様々な介護サービスを受けることができるため、本人や家族の負担軽減につながります。このような支援を活用しながら、ケアマネジャーには認知症の症状や生活面での不安点を相談し、ケアプランの作成をしてもらいましょう。
事実ではないことをまるで本当に起きたかのように話す、認知症の妄想・作り話。介護者からすれば理解しがたい言動に見えるかもしれませんが、本人にとっては何かしらの理由があってのことです。今回ご紹介した対応方法や付き合い方を参考にしながら、本人も介護者も安心して過ごせるように接し方を工夫してみましょう。介護者は決して無理をせず、必要に応じて周囲のサポートを受けたり、介護サービスを活用したりして、ストレスを溜め込まないように注意しましょう。
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