この記事の監修者
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フランスベッド
メディカル営業推進課
課長 佐藤啓太福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーター2級、福祉用具プランナー、
社会福祉主事任用資格、知的障害者福祉司任用資格、児童指導員任用資格、
可搬型階段昇降機安全指導員、スリープアドバイザー
認知症が原因で起こる食事拒否について困っている方のために、その原因と対応方法をご紹介します。
2025年10月25日
認知症の症状が進行すると、食事を勧めて拒否されることがあります。
介護者にとっては心配や不安を感じる食事拒否について一般的な理由と対応方法をご紹介します。
認知症の症状の一つである失認(認知機能の低下によって目の前にあるものが何かわからなくなってしまうこと)が原因で食べ物を正しく認識できていない場合があります。
失認によって食べ物だと理解できず、食べられるものかどうか判断もできないため、食事を拒否している可能性があります。色や形が似ていることから食べ物ではない他のものと誤認してしまい手でさわったり、放り投げたりしてしまうケースもあります。
食べ物であることを認識してもらうためには、声をかけることが大切です。温かいお味噌汁ですよと声をかけて食事を提供しましょう。またおいしい〇〇ですよと声をかけて一緒に食べることで、目の前にあるものが食べられるものだと認識して食べ始めることもあります。
認知症の症状の一つ、失行(今まで当たり前にできていたことができなくなってしまうこと)が原因で食べ方がわからなくなっている可能性があります。
食事のシーンでは、お箸の持ち方や使い方がわからなくなったり、お箸で食べ物を取って口へ運び、噛んで食べるという一連の動作を忘れてしまうこともあります。特定のものだけを食べない、食べようとしているのに箸が進まず戸惑っているなどの様子が見られる場合は、失行の疑いがあります。
こうした症状が見られる場合は、本人から見えるところに座って一緒に食事をしてあげましょう。他の人が食べている様子を真似して食べ始めることがあります。また、並んでいる食器の数が多いとか、お皿に料理がたくさん盛られていると、どこから手をつけどのように食べればいいのか混乱してしまうことがあります。混乱を防ぐために料理は食べきれる量を小出しにするのが良いでしょう。
お皿の色を変える、ご飯にふりかけをかけるなど、些細なことがきっかけで食べ方を理解できることもあります。どうすれば本人が食べ方を理解できるのか、食事の提供の仕方を工夫してみましょう。
高齢になると嚥下機能が低下し、食べ物を飲み込みにくくなります。
口に入れてもうまく嚥下できずにむせて咳き込んだり、吐き出したりすることがあります。このようなことが続くと、食事の時間が楽しくなくなり食欲が低下、食事拒否につながります。無理して飲み込むと気管に入り、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こす恐れもあるため注意が必要です。
嚥下機能が低下している高齢者には、具材を細かくカットしたり、食べ物の固さを変えるなど調理方法を工夫し、食べやすさと飲み込みやすさを意識した食事を用意するようにしましょう。
入れ歯の違和感、歯周病や虫歯の痛みなどの口腔トラブルが原因で食事がストレスになっていることがあります。舌苔(舌の汚れ)が厚く付いていることで味を感じにくくなり、食事をきちんと味わえていないこともあります。口腔トラブルが原因となり食欲が低下してしまいますのできちんと口腔ケアを行いましょう。
テレビの音が気になる、照明が明るすぎる、暗すぎるなど、落ち着いて食事ができない環境も食事拒否の原因となります。
他にもテーブルの高さが合っていなくて食べづらい姿勢になることに不快感を持ち、食事が楽しめないといった場合もあります。
かつての生活習慣に合わせ、本人が心地よく食事ができる環境を作ってあげましょう。
体調不良が食事拒否につながることもあります。体調が良くないことを上手に介護者に伝えられないで食事ができなくなる場合や、本人が体調不良に気づいてない場合もあります。本人の表情や食事の様子、日ごろの排泄や睡眠状況などを観察して「なんとなく元気がない」「様子がいつもと違う」などと変化に気づける姿勢を大切にしてください。体調不良の中でも熱中症や風邪、身体の痛みなどは食欲を減退させる原因となります。胃もたれや便秘が数日続くなどの場合、胃がムカムカする、お腹が苦しいなどの理由から食事拒否だけでなく不機嫌になることもあるかもしれません。まずは体調不良の原因を特定し、正しく体調を整えることを優先しましょう。
BPSD(認知症の行動・心理症状)による気分の落ち込みが食事拒否につながる場合もあります。BPSDとは、認知症の中核症状によって生じる心理面や行動に現れる症状のことです。具体的な症状としては徘徊、暴言・暴力、食事や入浴の抵抗など行動面の症状、あるいは幻覚、妄想、抑うつ、不安など心理面の症状などが挙げられます。抑うつや不安といった気分の落ち込みから食欲が低下し、食事への関心が薄れることで拒否につながることもあります。食事自体を負担に感じたり、介助に抵抗を示したりする場合など症状には個人差があります。日々の様子を観察しながら医師や介護スタッフ、ケアマネジャーに早めに相談することが大切です。
―BPSD(認知症の行動・心理症状)について、もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「BPSD(認知症の行動・心理症状)とは?引き起こす要因や治療法を解説」
そもそも食事内容への不満が食事拒否になっている場合もあります。苦手な食べ物が出される、普段自分が食べていた料理と味付けが異なっているなど本人の好みと合わないことが原因となります。食事への興味を取り戻してもらうには、本人の好きな食材や料理を把握することが大切です。食事の際に本人に選択してもらうことで満足感を引き出すのも良いかもしれません。例えば、ごはんの量を少なめか普通のどちらかで選んでもらう、お味噌汁かスープで選んでもらうなどの選択肢を用意すると、尊重されていると感じて気持ちが満たされることがあります。
服用している薬の副作用によって食欲が低下している場合もあります。厚生労働省のガイドラインのもと、認知症の症状によって進行を遅らせるための薬や、精神状態を安定させる薬などを服用している方もいるでしょう。処方される薬には、抗認知症薬、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠導入薬などがあります。興奮や不安、妄想などを抑えたい時や、BPSD(行動・心理症状)への対処として用いられることがあるものの、食欲不振やふらつき、眠気などの副作用が出る可能性もあります。薬の副作用について心配な点が残る場合、まずは主治医や薬剤師に確認をしましょう。
―参照リンク―
▶ 厚生労働省「認知症関連ガイドライン」
認知症の種類によっても食事拒否をする理由は異なってきます。
認知症の種類別に食事拒否の理由をご紹介します。
アルツハイマー型認知症の場合は脳全体が萎縮して認知機能が低下する症状が原因で食事拒否があらわれます。
失認により食べ物であることを認識できない、失行によりお箸の持ち方や使い方がわからなくなるなどが食事拒否の理由になります。
レビー小体型認知症の場合は幻視やパーキンソン病のような症状が原因で食事拒否があらわれます。
手の震えによってお箸やスプーンが使いにくく食べ物がうまく掴めない、幻視の症状によって料理の中に虫が入っているように見えるなどの理由で食事拒否があらわれます。
血管性認知症の場合は、脳梗塞や脳出血などによって脳がダメージを受けた部分の違いで食事拒否の症状が異なります。
身体の麻痺によってお箸やスプーンを使うことが難しいことが理由の場合、麻痺によって口が開きにくく食べにくいことが理由で食事拒否があらわれることもあります。
食べやすいように食材の大きさや固さを工夫しましょう。食材が飲み込みにくい場合はとろみ食を使う方法がありますが、あまり好まない人もいるので本人の希望を聞いてみましょう。
また、認知機能が低下している人は、お皿の柄と食べ物の区別がつきにくいことがあるので、無地のシンプルな食器を使うことをおすすめします。
お箸を使うことが難しい人は、スプーンやフォークに変えるなどしましょう。
栄養のバランスがもちろん大切ですが、口に合わない物ばかりだと食欲を出させるのは難しいです。好きなメニューをベースにして、少しずつ他の食べ物も提供するようにしましょう。
また体を動かすことも食欲増進につながります。簡単な体操やウォーキングなど、できるだけ体を動かす機会をつくりましょう。
毎日の体調管理も大切です。便秘でお腹に不快感があり食欲がないこともあります。お腹がスッキリすると食欲が出て食べ始めることもあります。日々の様子をチェックしておきましょう。お口の中の不快感や痛みから食欲がわかないこともあります。日頃から口腔ケアをしっかり行い、毎日の食事を楽しめるようにしましょう。
テレビの音が気になる、反対に静かすぎて落ち着かないなどが原因で食事に集中できず食べなくなってしまうことがあります。
これまでの生活習慣に合わせ、本人がリラックスして食事ができる環境をつくることが大切です。美味しいですか?などと気を使い声をかけすぎることがストレスに感じたり、誤嚥の原因になる場合もあるので、声かけはほどほどにしましょう。
またテーブルの高さを合わせる、椅子の高さを調整するなど、食べやすい姿勢をとる工夫も忘れずに行いましょう。食べやすい姿勢は、食事を楽しんでもらうためだけでなく誤嚥防止にもつながります。
食事をとらないからといって、無理強いするのはやめましょう。
強引に食事を勧める、食べないことを責めるなどすると、さらに食事の時間がストレスとなり食事拒否を強めてしまいます。無理やり食べさせてしまうと誤嚥を引き起こす可能性にもつながります。
きちんと食事をとることは大切ですが、一食抜いただけですぐに体に大きな影響が出ることはありません。水分補給を忘れず、食欲がないときでも食べられそうなものを探して準備するようにしましょう。食事介助をするときは、見守る姿勢でいることが大切です。
認知症の方の食事拒否は改善できないのでしょうか?必ず改善できるというわけではありませんが、ここでは、食事拒否の理由や原因を推察し、本人に寄り添ったケアを実施したことで改善につながった老年看護学会誌に掲載された事例をご紹介します。
―出典元―
▶ 日本老年看護学会誌 第24巻第2号(2020年)「食事に課題のある認知症高齢者への看護 ケア実践者が困難を感じた7事例への実践を通して」
食事の介助を工夫することで食事拒否が改善した事例があります。
対象者は食事のときに、スプーンやお椀を手から離して大声で歌い始めたり、急に怒りだしたりなどの状態の方。最初になぜ、食事時間に興奮してしまうのかを探ると、アルツハイマー型認知症による食べ方や手順の失行が原因で、それを取り繕うための興奮状態だと考察ができました。そこで介助者にスプーンを持つしぐさを思い出させる、お椀内に食べ物がなくなったら、わんこそばスタイルで補充するなどのサポートをしました。その結果、興奮せずに8~10割の食事を摂取できるようになり、水分補給のための点滴も不要となったのでした。
見守り体制に切り替えることで自分のペースで食事ができるようになり、食事拒否が改善した事例もあります。
対象者は食事に関心を示さず、介助には顔を背けていやがるような状態の方。この方は抑うつ状態の経過が長いこともあったため、薬の副作用の可能性を主治医に確認し、少量でも自分で食事を摂取するのを目標として観察することにしました。介助者側の「食べてほしい」というメッセージが本人の精神的負担にならないように食事を促す言葉は使わずに自力摂取で3~4割程度できれば良いとしました。その結果、少しずつ摂取量が増えて6~7割の食事を摂取できるようになり、無事に退院することができました。
認知症の方が食事を摂らなくなったとしても、すぐに寿命が縮まるというわけではありません。とはいえ認知症の症状が進行すると徐々に食事を摂ることが難しくなり、嚥下機能の低下や消化機能の低下、意識の低下などが見られるようになります。そして、認知症末期には、寝たきりになることも多いので、食欲は低下し、最後には栄養や水分が完全に摂れなくなり、寿命を迎えることもあります。食事が摂れなくなると家族は不安に陥りますが、このような場合に延命治療を行うのか、看取りをする準備をはじめるのか、医師や家族と冷静によく話し合っておくことが大切です。
認知症の方の食事拒否は、認知機能の変化に加えて嚥下機能の低下、口腔トラブル、体調不良や、薬の副作用、食事の内容など様々な原因があります。改善方法についてもいろいろな方法がありますがまずはどのようなことで食事拒否につながっているのかを探すところから始め原因や理由を把握した上でそれぞれにあった改善策を行いましょう。実際に食事拒否が改善された事例もありますので病院や介護のプロにも相談しながら対応するようにしましょう。
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