嚥下障害とは?
原因と症状を理解して、正しい対策を

嚥下(えんげ)障害とは何か?その症状や原因、治療方法、予防方法について、また嚥下障害により起こる誤嚥性肺炎についても紹介します。

2020年9月30日

嚥下障害とは?

嚥下(えんげ)とは、口の中で食べ物を飲み込みやすいかたちにし、食道から胃へ送り込むことをいいます。
嚥下障害とは、口の中のものを上手く飲み込めなくなる状態のことです。
口に入れた食べ物が胃に運ばれるまでにたくさんの器官が関わっています。通常の状態であれば、まず最初に口の中で食べ物を噛み砕きます。そして砕かれた食べ物は咽頭へ送られます。そのとき鼻への逆流を防ぐために鼻腔と口腔の間が閉じられ、気管の入口にもフタがされ食べ物は食道へ送られます。食道では伸びたり縮んだりを繰り返す蠕動(ぜんどう)運動によって、食べ物を胃まで送ります。嚥下障害が起こると、この食べ物が胃に運ばれるまでの過程で器官のどこかに問題が生じて飲み込む動作に障害が起こるのです。
嚥下障害により上手く飲み込めないことが理由で食事が進まず、栄養不良や脱水状態になることもあります。また、食べ物がのどに詰まって窒息する恐れや誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあるため嚥下障害には注意が必要なのです。

嚥下障害の症状について

嚥下障害による症状には次のようなものがあります。
思い当たる症状がある場合は注意しましょう。

症状1:食事中によくむせる

汁物や水分に固形物が入った食べ物は特にむせやすく唾液でも咳き込む場合があります。

症状2:食べることに疲れる

嚥下障害により食べ物を飲み込むまでに時間がかかることで食事時間も長くなり、食べることに疲れを感じてしまいます。

症状3:最後まで食べきれない

嚥下障害により食べられるものが限られるため食事への意欲が低下します。このことで食事中に疲労を感じて最後まで食べきれない場合があります。

症状4:食事内容が変わる

固形物などよく噛んで飲み込まないといけない食品を避けるようになり、麺類などの柔らかくあまり噛む必要のないものを好んで食べるようになります。

症状5:食べ方が変わる

嚥下障害の影響から口から食べ物をよくこぼすようになる、上を向いて食べるなど食べ方に変化が現れることがあります。

症状6:食べ物が口の中に残る

食べ物を口の中でずっとためこんでいたり、なかなか飲み込まないなどの影響が出る場合があります。口の中で食べかすや汚れがたまり、口臭がきつくなる場合もあります。

症状7:食後に声が枯れる

口の中に食べ物が残ることから、たんが絡みやすくなり、声が枯れガラガラ声になる場合があります。

嚥下障害の原因とは?

嚥下障害の原因は、大きく分けて「器質的原因」「機能的原因」「心理的原因」の3つに分類されます。

【1.器質的原因】

飲み込む動作に必要な器官に炎症や腫瘍があり、食べ物が通る道をふさいでしまっているケースを器質的原因といいます。口の中に口内炎や咽頭炎、舌炎などがある、食道に潰瘍があるなどが理由で食べ物が通る道をふさいでしまい、嚥下障害を引き起こしてしまいます。

【2.機能的原因】

各器官を動かす筋肉や神経に異常があり、飲み込む動作が上手くできないケースを機能的原因といいます。脳卒中やパーキンソン病などの病気によって筋肉や神経がうまく働かず、嚥下機能が衰えてしまいます。向精神薬や鎮痛剤などの影響で、各器官の働きが悪くなる場合もあります。加齢による筋力低下も機能的原因のひとつです。

【3.心理的原因】

うつ病や心身症、ストレス性の胃潰瘍などの精神的疾患により起こるケースを心理的原因といいます。喉の違和感や飲み込みづらさが生じ、嚥下が上手くできなくなります。

嚥下障害の注意点
「誤嚥性肺炎」

口の中のものを飲み込むとき、本来は気管の入り口にフタをして食道へと送ります。しかし嚥下障害が起こると誤って気管に入ってしまうことがあります。これを誤嚥と呼びます。誤嚥が起こったときに唾液や食べ物に含まれる細菌が気管を通って肺まで届き、中で炎症が起こることを誤嚥性肺炎といいます。誤嚥したものの中に細菌がたくさん含まれている、咳で上手く出せない、免疫力が低下しているなど様々な条件が重なって誤嚥性肺炎は起こります。他にも胃から肺へと逆流して起きることもあり、その場合は胃酸や消化液で粘膜を傷つけてしまいます。ダメージを受けた気道粘膜は治りにくい上に働きも悪くなるため、誤嚥性肺炎を繰り返し引き起こすリスクが高くなります。誤嚥性肺炎は高齢者の死因として多くの割合を占めている恐ろしい病気ですが通常の肺炎で見られる高熱や激しい咳、肺雑音などの症状がはっきり見られない場合があります。食後の疲れが目立つ、口の中のものをなかなか飲み込まない、なんとなく元気がないといった様子があるときは、誤嚥性肺炎の疑いがあるため早めにかかりつけ医に相談しましょう。

嚥下障害の治療方法とは?

嚥下障害の治療方法には、リハビリと手術があります。重度の嚥下障害の場合は手術を行いますが、高齢者の場合はリハビリによる改善を目指すことがほとんどです。リハビリには間接訓練と直接訓練があり、食べ物を使わない間接訓練から開始し、回復状況を見ながら直接訓練を増やしていくのが一般的です。リハビリの治療内容、手術についてご紹介します。

1.リハビリ

【間接訓練】
嚥下機能の回復を目的とし、食べ物を使わずに間接的に行う舌や口のトレーニングを間接訓練といいます。

●リラクゼーション

首や肩周辺の筋肉が固くなっている、体に力が入っているなどの場合に誤嚥しやすくなります。上半身を中心にストレッチを行い、肩や首を回すなどして体をリラックスさせることで回復を目指します。腕を左右に大きく広げたり、深呼吸をするのも効果的です。

●口唇・舌・頰の訓練

頰を膨らませる、舌をベーっと出すなど口唇、舌、頬を動かして口周りの筋肉の動きをスムーズにし、筋力強化を図ることで回復を目指します。

●感覚向上訓練

凍らせた綿棒に水をつけて口腔内を程よく刺激するアイスマッサージを行うなど、口腔の感覚をよくする訓練です。食べ物を飲み込むとき、反射的に器官を閉じる嚥下反射を誘発させることを目指します。

●嚥下反射促通手技

嚥下に関わるあごから下の筋肉をマッサージして刺激し、嚥下運動を促進させるための訓練です。直接訓練の際に口の中に食べ物が残っていてうまく飲み込めないときにも行う方法です。

●呼吸訓練

痰や食べ物が喉や気管に入ったとき、しっかり咳をして排出できるよう呼吸に使う筋力を鍛える訓練です。腹式呼吸の練習を行うと、呼吸機能が高められます。

●発声訓練

大きな声で「パ・タ・カ・ラ」の4音を繰り返し発声します。この4音を発声するときには食べ物を飲み込むときと同じ器官を使います。嚥下に関わる器官を動かし、筋力アップや喉、舌のスムーズな動きを目指します。

【直接訓練】
実際に食べ物を使って行うトレーニングを直接訓練といいます。丸飲みできるゼリーなどのやわらかいものから始め、段階的に通常の食事へシフトしていきます。

●食品の調整

障害のレベルと本人の好みに応じて、とろみ調整食品やゼリー状食品などを用いたり、ミキサーにかけるなどして食品の形状や柔らかさを調整します。

●交互嚥下

パサつく食べ物の後にとろみのあるゼリーを食べるなど、形状の異なる食品を交互に摂取します。これを繰り返すことで、食べ物が口の中や咽頭に残りにくくなります。

●複数回嚥下

ひと口の食べ物を複数回に分けて飲み込むことで口の中や喉に食べ物が残るのを防ぎます。

2.手術

手術は大きく分けて嚥下機能改善手術と誤嚥防止術の2つに分けられます。嚥下機能改善手術は誤嚥をなるべく減らし、口から食事できるようにする手術です。
食事をとるためには手術だけでなく、術後のリハビリを行う必要があります。嚥下機能改善手術後、嚥下機能の回復が見られない場合は食道と気道を分離する誤嚥防止術が行われることがあります。しかしこの手術によって発声機能が失われるリスクがあるため、嚥下機能改善手術には慎重な判断が求められます。

嚥下障害の予防方法について

嚥下障害を予防するためには、食事や衛生面での配慮が大切です。

●飲み込みやすい食事を提供しましょう

ゼリー状やペースト状など本人の嚥下レベルに合わせた形状の食事を用意しましょう。肉などの口の中で噛み砕きづらい食べ物は、うまく噛み切れないまま飲み込んで窒息してしまう危険性があります。あらかじめ細かく切っておくなど、飲み込みやすい食事を提供しましょう。

●食事する環境・姿勢を整えましょう

食事に集中できるようにテレビを消すなど落ち着いて食べられる環境を整えましょう。正しい姿勢で食べることも誤嚥防止につながります。椅子に深く腰を掛け、背筋が伸びるように座るなど姿勢を整えてあげましょう。また食後すぐに横になると食べ物が逆流する恐れがあるため、しばらく座ったままで過ごすようにしましょう。

●食べ方に注意しましょう

飲み込みやすいように口に入れる量を調整しましょう。特に汁物はむせやすいため注意が必要になります。食べ物を口に入れ、よく噛んでから飲み込むように注意して、口の中が空になってから次のひと口を入れるように心がけましょう。

●口腔ケアを行いましょう

毎食後きちんと歯磨きをすること、入れ歯の場合は外して洗浄するなど口の中を清潔に保つようにしましょう。きちんと口腔ケアができていないと、口の中の細菌が増殖して歯周病や誤嚥性肺炎になるリスクが高まります。口腔ケアを行い常に口の中を綺麗にしておくようにしましょう。