【原則1】否定しないこと、叱らないこと
認知症の方の言動を否定すること、叱ることは原則しないようにしましょう。
認知症が進行しても、本人の羞恥心やプライドまで失われるわけではありません。認知症によって否定されたことや叱られた理由を忘れてしまっても、そのときに感じた不安や不快な気持ちは残ってしまうのです。
安全上問題がない言動に関しては、否定せずに受け入れるようにしましょう。受け入れることで自尊心を傷つけないように接することが大切です。
【原則2】もの忘れを思い出させようとしないこと
もの忘れを思い出させようとしないことも原則です。
認知症になると、ついさっき起きた出来事を忘れ、何度も同じことを周囲に確認することや、繰り返し同じことを話すことがあります。このような状況で、本人に思い出させようと、さっきも言ったでしょ、などと言ってもすんなり納得してもらうことは難しく、本人は記憶がないので不安や嫌悪感が残るだけです。このような場合は、忘れていることを思い出させるのではなく、話を合わせて本人の不安を和らげてあげましょう。
例えば、食事したことを忘れて、食事はまだ?と聞かれたときは、今から用意しますからもう少し待ってくださいね、などと話を合わせてあげましょう。そして少し時間を空けることで食事を欲していたことを忘れてもらうようにします。食事のかわりにお腹にたまらないような軽いデザートを提供してみるのもひとつの方法です。
このように、もの忘れを思い出させるのではなく、話を合わせてあげることが大切です。
【原則3】無視や放置などでストレスを与えないこと
無視や放置するなどでストレスを与えないことも原則です。
どれだけ寛大な方でも、何度も同じ質問に答えるのは苦痛に感じると思います。だからといって無視や放置などは、本人に孤独や不安を感じさせてしまい、ストレスの原因になります。ストレスがたまると、大きな声を出す、暴力的になるなど不満が表面化するケースもあるので接し方には十分注意しましょう。
【原則4】家族が不安になり、焦って話さないこと
家族が不安になり焦って話さないことも原則です。
認知症になると、言われたことをすぐに理解することや、とっさに反応してスムーズに動くことが難しくなります。日常の簡単な動作でも時間がかかり、周囲のペースに合わせられないことが出てきます。そのようなときに、介護する家族は急かさず、焦って次から次へと話すようなことは避けましょう。本人はそれをみて、責められているように感じ、不快感を覚えてしまいます。
【原則5】認知症の高齢者本人がいちばん不安であること
認知症の高齢者がいちばん不安であることを覚えておきましょう。
認知症の進行によって、できていたことができなくなる、思い出せないことが増えるなどの症状がでます。状況を目の当たりにした家族は、ショックでなかなか現実を受け止めることができません。ですが、いちばん不安に感じているのは認知症である本人です。内面で起こる変化に不安を抱き、突然塞ぎ込んでしまう、八つ当たりのように怒りっぽくなるなど、様子が変わってしまうことがよくあります。介護者にとっては理解できない行動をとることがあるかもしれませんが、認知症になった本人はとても不安に感じているのです。そのことを理解し、できるだけ本人の気持ちに寄り添ってコミュニケーションをとることが大切です。
【原則6】ほめる、感謝する、相槌を打つこと
ほめる、感謝する、相槌を打つことを、認知症の方とのコミュニケーションでは意識しましょう。
まずは、ほめること。認知症により、自分ひとりでできないことが増えると、自分は役に立たない、誰からも必要とされていない、などと思い込んでしまうことがあります。このような気持ちにさせないために、できなくなったことや失敗したことに目を向けるのではなく、うまくできたことをしっかりほめることが大切です。無理なくできることや得意なことをお願いして、自分も誰かの役に立っているということを感じてもらうのです。
次に感謝すること。何かをしてもらった後には、きちんと感謝を伝えることも忘れないようにしましょう。そうすることで誰かの役に立っていることを自覚してもらえます。
そして相槌を打つこと。本人の話を聞くときは、しっかりと相槌を打ち、うれしいことは一緒に喜ぶなど共感しながら話を聞くことが大切です。話を聞いてもらえた、認めてもらえたという喜びや安心につながります。
【原則7】耳元でゆっくり、大きな声で話すこと
耳元でゆっくり、大きな声で話すことも原則です。
年齢を重ねるにつれて老化により聴力は衰えてしまい、これまでのように話しかけても声が届かず、無視されてしまうことがあります。ただ老化で耳が遠くなっているだけにも関わらず、もう言葉すら理解できなくなってしまったなどと勝手に思い込んでしまうケースもあります。このような誤解がないためにも、コミュニケーションをとるときは、本人の耳元で大きな声でゆっくりと話すことを心がけましょう。
【原則8】目線を合わせて、目を見て話すこと
目線を合わせて、目を見て話すことも原則です。
ベッドで横になっている方や、車椅子に座っている方に話しかけるときは、介護者が立ったままの状態でいると見下ろすことになり、威圧感や不安を与えてしまう恐れがあります。介護者が目線の高さを合わせ、しっかりと目を見て話すように心がけましょう。
―認知症の介護ストレスについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
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