この記事の監修者
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上田悠理
医師(形成外科医・在宅訪問診療医)
ヘルステックプロモーター
高齢化が進む日本で問題になっている、老老介護、認認介護とは何か?その実態と原因、問題点の把握から予防策まで老老介護・認認介護について徹底解説します。
2024年1月25日
老老介護とは、65歳以上の高齢者が自分と同じ65歳以上の高齢者を介護している状態のことで、65歳以上の夫婦同士、親子、兄弟姉妹の間など様々な間柄で老老介護は生じています。在宅介護を行う世帯で老老介護の割合は年々増加し、現代の高齢化社会における大きな問題のひとつとなっています。
認認介護とは、認知症の人が自分と同じ認知症の人を介護している状態のことで、お互いが認知症のため、介護ができる状態ではない場合もあるため、介護放棄や虐待などに発展して事件や事故を引き起こす恐れもあります。高齢者が二人きりで暮らしている場合、家族や周囲の人が認知症に気付かずに、いつの間にか老老介護から認認介護になっていることもあります。認知症の症状があっても日常生活に大きな支障がないため要介護申請をしていない方や、認知症の自覚がないまま介護を続けている方も少なからずいるため認認介護の正確な実態を把握するのは難しいと言われています。
厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査の概況※」によると、要介護者と同居している世帯の中で65歳以上同士の老老介護の割合は63.5.%となっており、2010年以降上昇傾向にあります。また、要介護者と介護者の両方が75歳以上である超老老介護の割合は35.7%で、こちらも年々数値が上がっていることがわかります。今後も日本では高齢化が進むと言われているため、さらに割合が増えていくことが予想されます。
※「2022年 国民生活基礎調査の概況」より
■要介護者と同居している世帯の老老介護・超老老介護の割合の年次推移
老老介護(65歳以上同士) | 超老老介護(75歳以上同士) | |
2001年 | 40.6% | 18.7% |
2004年 | 41.1% | 19.6% |
2007年 | 47.6% | 24.9% |
2010年 | 45.9% | 25.5% |
2013年 | 51.2% | 29.0% |
2016年 | 54.7% | 30.2% |
2019年 | 59.7% | 33.1% |
2022年 | 63.5% | 35.7% |
要介護者の年齢階級別を見ると、2022年現在80~84歳は20.9%、85~89歳は27.1%、90歳以上では26.2%となっています。続いて介護が必要になった主な原因を要介護度別に見ると、要支援者では「関節疾患」が19.3%ですが、要介護者では23.6%が「認知症」によって介護が必要になったという結果になっています。またその他、2012年の日本の65歳以上の認知症有病率の推定値は、462万人の15%という調査報告があります。この462万人を将来推計にあてはめると、2030年には約744万人、さらに各年齢の認知症有病率が上昇したと仮定すれば830万人で22.5%が認知症であるという推計発表がされています。こうしたことから、老老介護を行う世帯の夫婦2人が要介護認定を受けている場合、どちらも認知症であることは珍しくないといえるでしょう。また、その時点で認知症を発症していなくとも、介護する側、される側の2人が認認介護予備軍であることも推測され、今後も増加していく可能性があります。
介護者の状況を見ると、半数近くの45.9%が要介護者と同居しています。その中でも多い続柄は配偶者で22.9%、次いで子が16.2%となっています。同居以外の介護者の状況では、別居の家族等が11.8%、事業者が15.7%という結果になっています。
【要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合】2022(令和4年)年
※()内は2019年(令和元年2)の数値。
次に、同居する主な介護者がどれだけの時間を介護にあてているかを要介護度別に見てみると、要支援1から要介護2までは必要なときに手を貸す程度が多い傾向にありますが、要介護3以上になると半日程度介護をしている割合が増えています。さらに要介護5においては、半数以上の63.1%がほとんど終日、介護をしているという結果になっています。このことから、要介護度が重度になるにつれて介護時間も増え、同居する介護者の負担が大きくなっていくことがわかります。
【要介護度別にみた同居の主な介護者の介護時間の構成割合】2022(令和4年)年
※総数には要介護度不詳を含む。 ※「2022年 国民生活基礎調査の概況」より
介護において、移乗や入浴、着替え、排泄介助など体力を必要とすることが多いため高齢の介護者にとっては大きな負担となります。 高齢になるとともに体力が落ちていきます。介助のひとつひとつに時間がかかってしまうため、介護される側も不安定な姿勢が続くなど負担に感じることがあります。移乗時などに要介護者の体をうまく支えることができず、転倒など事故につながる危険性もあります。介護者自身が転倒して骨折などのケガを負い、介護ができなくなるケースがあるなど、老老介護には体力の問題から共倒れになるリスクがあります。
誰にも頼ることができず介護に専念していると、外出する機会が減って近隣住民や地域との交流が少なくなり、社会的つながりが薄れてしまうという問題があります。外出が減ることで運動量も減って介護者の筋力や身体能力の低下につながることが考えられますし、外部からの刺激がないことで認知機能の低下が進む可能性も高く、認認介護になるリスクも高まります。 また、介護に追われて趣味を楽しむなど自分のための時間を持つことができず、介護者の心の余裕がなくなってしまうことも考えられます。このような状態になっても誰かに相談できずにいると、介護うつに発展する恐れもあり、これが原因で介護放棄や虐待、犯罪につながるケースもあるため注意が必要です。
認認介護の場合は、服薬や食事など身の回りの管理ができなくなるという問題があります。例えば、薬の飲みすぎや飲み忘れで体調を崩す、温度管理がうまくできず熱中症になる、水分補給を忘れて脱水症状に陥る、食事したことを忘れて過食になる、好きなものばかり食べて栄養が偏るなどです。火の不始末により火災が発生することもあるため注意が必要です。また、金銭管理ができなくなるケースも多く、暗証番号を忘れてお金を引き出せない、高額なものを購入してしまうなどもよく見られます。 認知症の場合、体調の急変や火災などの緊急事態に気づきにくいだけでなく、何かトラブルが起きたときにうまく対応できないことが多く、最悪の場合は命に関わる事態に発展することもあるため注意しなければなりません。
日々の介護に追われストレスが蓄積、精神的にも追い詰められるケースも多くあります。無理に介護を続け、肉体的にも精神的にも限界をむかえ、共倒れを引き起こすことも考えられます。要介護者を付きっきりで介護していると、社会的つながりが減りコミュニケーション不足や運動不足に陥りやすく、脳の機能が低下して介護者自身も認知症を発症するという場合もあります。介護者も要介護者も認知症の認認介護になってしまい、介護の負担はより一層大きくなります。
最近は、独立後に親と同居する家庭が減少し、核家族化が進んでいます。子ども世帯が遠方に住んでいることも多く、介護が必要になっても助けを求めることができずに高齢夫婦間での老老介護になりやすいと考えられます。また、我が子に迷惑をかけたくないからという理由で、夫婦間での介護を望み、老老介護になるケースもあります。
身内である自分が何とかしないといけないという責任感やプレッシャーから他人を頼ることへ抵抗感をもち、介護を一人で抱え込んでしまうことが原因の場合もあります。他人が自宅に入ることへの警戒や、排泄・入浴などプライバシーに配慮すべき介護を誰かにお願いすることに抵抗を感じるなど、なかなか他人に頼れないことが老老介護を増加させている原因となっています。
経済的な余裕がないことが原因で施設入所や介護サービスの利用ができず、老老介護を選ばざるを得ないというケースもあります。可能であれば第三者のサポートを得たいと思っていても、生活保護を受給しているなど金銭的余裕がないために老老介護になってしまっている方も多いのが実情です。
介護なしに日常生活を送ることができる期間のことを健康寿命と呼びます。平均寿命からこの健康寿命を引いたものが介護を必要とされる期間と考えられます。例えば「令和2年版高齢社会白書※」によると、2016年の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳。同じ年の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳。平均寿命から健康寿命を引くと男性8.84年、女性12.35年となり、介護を必要とする期間が約10年程度になります。50代半ばで親の介護を始めたとすると介護している間にお互いが65歳以上の老老介護をむかえます。今後も高齢化がすすみ、平均寿命も年々延びていることから、老老介護がさらに増えていくと考えられます。
解決策のひとつとして国のサービスの利用があります。厚生労働省では、今後も予想される高齢者の増加に備えて高齢者の生活を地域でサポートする地域包括ケアシステムの構築を進めています。地域包括ケアシステムとは、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制のことです。介護が必要になってからでも住み慣れた地域で自分らしく自立した生活を送り続けられるようサポートするシステムです。地域の実情や特性に合わせて体制を作り上げ、団塊の世代が75歳以上となる2025年の実現を目指しています。この実現に向け、全国の自治体には地域包括支援センターが設置されています。地域包括支援センターには、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職がいるので、高齢者の生活に関してあらゆる相談ができます。老老介護での困り事や心配事があれば、一度相談してみましょう。
老人ホームなどの介護施設へ入居することも、老老介護の解決策のひとつです。訪問介護やデイサービスなどの介護サービスに比べると費用はかかりますが、介護の負担を大きく減らすことができます。施設によっては夫婦で入居可能な場合もあり、これまで通り生活を共にしながら介護をプロに任せることができるので安心です。入居にかかる費用は要介護度や事業所の形態によって違います。サービス内容も各施設によって異なりますので入居前に施設の特色を確認し、気になることは質問するなどしてしっかり調べるようにしましょう。
介護サービスをうまく活用するのも老老介護・認認介護の負担を減らす対策のひとつです。要介護認定を受けている人の場合、介護サービスの内容によっては介護保険が適用され、費用の原則1割(所得に応じて2~3割)を自己負担すれば利用可能です。介護をひとりで抱え込まず、介護サービスを利用して少しでも負担を減らしましょう。
【通所型介護サービス】
種類 | サービス内容 |
通所介護 (デイサービス) |
日帰りで通い、食事や入浴などの介護サービスを受けることができる。 健康状態のチェックや生活機能訓練を目的としたレクリエーションが行われ、心身機能の維持・向上ができる。 送迎サービスがついている。 |
通所リハビリテーション (デイケア) |
介護老人保健施設や病院などに日帰りで通い、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士のもとでリハビリを受けることができる。 専任の医師がいるため医療的ケアが受けられる。 リハビリ以外にも、食事や入浴などの介助、自宅までの送迎をお願いすることができる。 |
短期入所 (ショートステイ) |
施設に短期間宿泊し、食事や入浴、排泄介助など日常生活上のサポートを受けることができる。 専門職によるリハビリや、医師・看護師による医療的ケアが受けられる。 |
【訪問型介護サービス】
種類 | サービス内容 |
訪問介護 | 介護福祉士やホームヘルパーなどが自宅を訪問し、食事や入浴、排泄などの身体介護を行う。 洗濯や掃除、買い物などの生活支援サービスを受けることができる。 |
訪問看護 | 看護師などが自宅を訪れ、健康状態のチェックや医療処置を行う。 療養上の医療的なアドバイスを受けることができる。 |
福祉用具貸与 (介護用品・福祉用具のレンタル) |
車椅子や介護用ベッド、手すり、スロープなど、一部の福祉用具は介護保険を利用してレンタルすることができる。 購入よりも費用が抑えられることもあり経済的負担を減らすことができる。 |
フランスベッドでも、介護用品・福祉用具のレンタルサービスを行っています。福祉用具専門の資格を持った相談員が、お客様のニーズに応じた最適な製品をご提案しています。事業所ごとに良質な福祉用具レンタルサービスの基準に合致した「シルバーマーク福祉用具貸与サービス」の取得や福祉用具の消毒工程管理基準に合致した「福祉用具の消毒工程管理認定マーク」の取得など安心と信頼のサービスを提供しています。
―フランスベッドの介護用品・福祉用具レンタルについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「介護用品・福祉用具のレンタル(介護保険利用・自費)」
―デイサービス・ショートステイについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「デイサービス(通所介護)とは?一日の流れやサービス内容、費用やメリットを解説」
老老介護・認認介護はできることなら避けて通りたいものです。では老老介護・認認介護を予防するためには一体どうすればよいのでしょうか?介護が始まる前にできる予防対策を4つご紹介しますので、参考にしてみてください。
予防対策のひとつめは、何よりも介護が必要な状態にならないように健康的に毎日を過ごすことです。運動不足や食生活の乱れ、過度の飲酒や喫煙などは生活習慣病を引き起こす恐れもあるので、心当たりがある方は健康を意識した生活を送るように心がけましょう。 ウォーキングやストレッチなどの適度な運動を習慣とし、栄養バランスがとれた塩分控えめの食事をすることもおすすめです。また認知症のリスク因子として、「低刺激」も挙げられるため、囲碁、将棋、手芸などの趣味や脳トレやゲームといった知的活動に取り組み、ひとりではなく家族や友人と一緒に行うことでコミュニケーションを深め、外部とのコンタクトを得て、活動的な生活を送ることが予防になります。コミュニケーションを取ることで体調の異変にも気付いてもらいやすくなり、一石二鳥といえるでしょう。
要介護の度合いが上がる可能性を見逃さないようにすることも重要な予防対策のひとつです。介護者であっても違和感があれば、たとえ症状が軽くても早めに病院を受診するようにしましょう。定期的な受診は、認知症の早期発見にもつながり、適切な治療で症状の改善や、進行を遅らせることもできます。
予防対策の2つ目としては、介護が必要になったときのことについて、元気なうちから家族とあらかじめ相談しておくことです。介護が始まると、わからないことや不安に思うことに直面する機会が増え、目の前のことに必死になり介護についてゆっくり考える暇などないことがほとんどです。介護してもらう側がどうしてほしいのかという希望はもちろんですが、介護する側の要望や意見もきちんと確認しておきましょう。例えば、こういう状態になればこのような施設に入居したい、仕事の都合があるので同居して介護することは難しいなど、共通認識を持っておくことが大切です。日頃から家族の間で介護についての考えを共有しておけば、突然介護が必要になった場合も慌てずに落ち着いて対応できるはずです。可能であれば、特に本人の意思について書面に残しておくと、外部からの協力を得られやすくなります。
予防対策の3つ目は、家族みんなで介護の知識を身につけておくことです。どのように介助すればいいのかわからないという理由で手探りのまま介護を始めると、介護者が足腰を痛める、要介護者が転倒するなどのケガにつながる恐れもあります。介護中の接し方に気を配らなければ、要介護者との関係が悪化することもあり、それが大きなストレスにつながることも考えられます。当コラムのような介護に役立つ情報を発信しているサイトで情報を収集することや、自治体で開催されている介護教室に参加するなど、介護が必要になっても焦らず対応できるように準備をしておきましょう。要介護状態になると介護保険を利用する機会も増えるため、介護保険制度についてしっかり理解しておくことも大切です。
―介護保険制度について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「介護保険制度とは?仕組みやサービス内容など、制度について解説」
予防対策の4つ目は、地域コミュニティに積極的に関わることです。近くに住む友人や仲間、近隣住民などと日頃から交流しておくことで、少しの変化に気づいてもらうことができます。そして困ったことがあったときにも協力してもらいやすくなります。他者とのコミュニケーションをとることで情報交換もできますし、外部からの刺激はストレス発散や脳の活性化にもつながって認知症予防にも効果的とされています。自治体で開催されるイベントやサークル活動に参加して、気の合う仲間や友人を見つけるのもいいでしょう。高齢になると社会的に孤立しやすいと言われます。要介護者と同居していない場合は、特に近くに住む知り合いに助けてもらうことが多くなると考えられるため、地域コミュニティに積極的に参加することで地域住民たちとよい関係性を築いておくことが大切です。
高齢化が進むにつれて増加していくと予想されている老老介護・認認介護。介護の負担はとても大きく、病状の悪化や共倒れなどのリスクもあるため、予防に向けた対策を講じることが大切です。もし老老介護・認認介護になったとしても、様々な介護サービスを活用すれば負担を軽減することができます。介護を一人で抱え込まず、周囲の人や介護サービスに頼ることも検討しながら、介護する側とされる側の両方にとってよりよい介護を目指しましょう。
―介護ストレスを悪化させない方法を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「介護うつとは?介護のストレスや疲れを軽減させる方法や予防法をご紹介」
―在宅介護のアドバイスについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「在宅介護のアドバイスや利用できるサービスを紹介」
フランスベッドは、日本で初めて療養ベッドのレンタルを始めたパイオニアとして40年以上にわたり介護用品・福祉用具のレンタル事業で選ばれ続けてきました。
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