ここからは、16種類ある特定疾病について、それぞれの原因や主な症状についてご紹介していきます。
特定疾病かどうかの判断は、発症の原因や症状などの診断基準を用いて医師が行います。そのため、同じ病名だったとしても特定疾病と認められない可能性もあります。要介護認定の審査でも、介護認定審査会が主治医の意見書の内容に基づいて、特定疾病に該当するかどうかを確認することになっています。ですからご紹介する内容はあくまでも参考程度にお考えください。
①がん(末期がん)
がんの中でも特定疾病となるのは、医師が進行性かつ治癒が困難であると判断した末期がんになります。
治癒が困難というのは、余命6か月程度の状態です。抗がん剤などの治療が行われている場合は、直接治癒ではなく症状緩和を目的としているのであれば、治癒困難な状態とみなされます。
がんは40代以降に発症することが多く、男性の発症率がやや高い傾向にあります。発症する部位は、2018年の統計によると大腸、胃、肺、乳房、前立腺の順に多くなっています。発症初期はほとんど症状がないのが特徴で、痛みや食欲低下といった症状が見られる場合は進行性のがんの疑いがあります。がんは、ピロリ菌や肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス感染などが原因の場合もありますが、飲酒や喫煙など生活習慣の乱れが原因となっていることが多いです。
②関節リウマチ
関節リウマチは、全身のあらゆる関節に炎症が発生して痛みやこわばり、手足の変形などの症状が現れる病気で、筋力低下などにより身体を動かしにくくなります。30代~50代の女性が発症することが多いと言われ、発症の原因は、遺伝的要因や喫煙、感染などと考えられていますが、詳しくはよくわかっていません。
関節リウマチが、特定疾病にあたるかどうかは、自他覚症状や臨床検査などの総合的な結果をもとに判断されます。基準となる自他覚症状の項目の一例を挙げると、朝のこわばりが少なくとも1時間以上続く、同時に両側の同一部位に関節炎を発症しているなどです。全7項目あるうち、少なくとも4項目を満たしていることが条件とされています。
③筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋萎縮性側索硬化症とは、身体を動かすための運動神経細胞の異常によって筋肉の萎縮や筋力が低下する病気で、ALSとも呼ばれています。
60歳前後で発症することが多いと言われていますが、発症の原因はわかっておらず、有効な治療方法もまだ確立されていません。発症初期には、よくつまずく、衣服のボタンが留めにくい、ろれつが回らないなどの症状が見られ、徐々に進行していくと筋萎縮や筋力低下といった症状が現れて、思うように体が動かなくなります。口や喉の筋肉も自力で動かせなくなることから、上手く言葉を発せなくなる、食べ物が飲み込みづらいといった症状も出てきます。さらに進行すると、呼吸筋が弱まって呼吸困難となり、人工呼吸器で生命を維持することになります。末期になるまで、感覚障害や眼球運動障害、膀胱直腸障害などが認められないのが特徴です。
④後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)
後縦靱帯骨化症とは、後縦靱帯と呼ばれる背骨の中を縦に通る靱帯が骨化する病気のことです。
骨化した靱帯が脊髄などを圧迫し、知覚障害や運動障害などの症状を引き起こします。主な症状としては手足のしびれ、足が思うように動かない、下肢の脱力などが挙げられます。重症化すると立ち上がることや、歩くことが難しくなり、日常生活への支障をもあります。後縦靱帯骨化症は50歳前後で発症することが多く、女性よりも男性の発症率が高いとされていますが、発症の原因はわかっていません。手足のしびれや痛み、知覚障害、運動障害などの症状が現れていることを確認し、レントゲン検査、必要に応じてCT検査やMRI検査を行って医師が診断を下します。
⑤骨折を伴う骨粗鬆症(骨粗しょう症)
骨粗しょう症は、骨がもろくなり日常生活のちょっとした負荷や軽い転倒などで骨折してしまう状態のことをいいます。骨粗しょう症になると、背骨、股関節、手首、肩を骨折することが多くなります。
基本的に自覚症状はなく、進行して骨折すると背中や腰の骨の変形、身長が縮むなどの症状が見られるようになります。骨粗しょう症は50代以降の女性の発症率が高く、加齢などによる骨量の減少、栄養不足、運動不足などが主な原因とされています。また、閉経後のホルモンバランスの変化も影響していると考えられています。
特定疾病と認められるのは骨折を伴う骨粗しょう症で、骨粗しょう症以外に骨がもろくなる疾患または服用中の薬がない、低骨量とみなされる骨密度である、事故などの大きな力が加わった骨折ではないなどの条件を満たしている場合に限られます。
⑥初老期における認知症
認知症の中でも65歳未満で発症する認知症は若年性認知症とも呼ばれ、特定疾病に含まれます。認知症を発症すると、記憶障害や理解力、判断力の低下といった症状が見られるようになり、進行するにつれて日常生活にも支障をきたします。認知症にもいくつか種類があり、代表的な認知症としてアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症が挙げられます。
特定疾病の診断基準は、記憶障害があること、そして失語、失行、失認、実行機能障害の症状が1つ以上あって社会生活や仕事が困難な状態であることです。頭部外傷や硬膜下血腫などの外傷性疾患、中毒性疾患、内分泌疾患、栄養障害などが原因の認知症は対象外となります。
―若年性認知症についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください―
▶ 「若年性認知症とは?症状や予防法とは?」
⑦進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病は、発症すると筋肉のこわばりや静止時のふるえ、無動、姿勢反射障害などのパーキンソン症状が現れます。いずれも脳の神経細胞の減少によって引き起こされる病気ですが、発症の原因はまだわかっていません。
■進行性核上性麻痺
発症初期には姿勢が不安定になる、すくみ足になる、歩行スピードがだんだん加速して止まれなくなるなどの運動障害や、軽度の認知症が見られることが多いです。進行すると歩行が困難になり、寝たきりになってしまいます。
■大脳皮質基底核変性症
パーキンソン症状に加え、意思と関係なく手が動いてしまうなどの大脳皮質症状が現れます。筋肉がピクッと動く不随意運動や、認知機能障害などが起こることもあります。
■パーキンソン病
パーキンソン症状が見られ、時間をかけてゆっくり進行するという特徴があります。
⑧脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症は、後頭部の下側にある小脳の障害によって生じる疾患の総称のことをいいます。
脳から筋肉にうまく指令を送ることができず、思うように体が動かせない運動失調を引き起こします。発症初期には歩行のふらつき、手の震え、細かい動きがやりにくい、ろれつが回らないなどの症状が現れます。発症の原因は遺伝性と孤発性(非遺伝性)に分けられ、3割程度が遺伝性と言われています。遺伝性は原因となる遺伝子の異常が判明していますが、孤発性は原因がわからない部分も残されており、研究が進められています。30代~40代で発症することが多く、症状の進行はとてもゆっくりという特徴があります。特定疾病であるかどうかは、症状や画像所見などから専門医が総合的に診断します。
⑨脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症とは、脊椎にある脊柱管が狭くなって神経が圧迫されてしまい、痛みやしびれを引き起こす病気のことです。
歩いているとだんだん腰痛や足のしびれといった症状が現れ、少し休むと回復する間欠性跛行(かんけつせいはこう)になるのが特徴です。痛みやしびれだけでなく、筋力低下や運動障害、排尿・排便障害といった症状が見られることもあります。この病気は中高年の方が発症することが多く、加齢や労働、背骨の病気の影響で背骨、椎間板、靱帯などが変形することが原因で発症します。レントゲン写真だけでなく断層写真やCT、MRIなどで詳しい検査を行い、症状と画像所見によって総合的に診断されます。特定疾病に指定されるのは、頚椎、胸椎、腰椎のうちいずれか1つ以上に脊柱管狭小化が認められるもの、画像所見と症状に因果関係が認められるものに限られます。
⑩早老症
早老症は、遺伝子の異常によって引き起こされます。若年性白内障、白髪、脱毛、鳥様顔貌(鼻がとがって鳥のような顔つきになる)、軟部組織の石灰化など、実際の年齢よりも早く老化の兆候が全身に現れる病気の総称のことです。20代から起こる早老症は遺伝子の異常が原因であることはわかっていますが、発症のメカニズムは解明されていません。早老症の代表的な疾患であるウェルナー症候群は、世界の発症者の約6割が日本人であると言われており、進行すると骨粗しょう症や糖尿病、脂質異常症、悪性腫瘍などを併発することが多いです。診断は、ウェルナー症候群を発症すると現れる頻度が高いと言われる症状(主徴候)と、糖同化障害や尿中ヒアルロン酸増加などその他の徴候や所見を基準にして行われます。
⑪多系統萎縮症(MSA)
多系統萎縮症(MSA)は、自律神経症状、パーキンソン症状、小脳症状などが組み合わさり現れる疾患の総称のことをいいます。発症する原因は、十分に解明されていないのが現状です。代表的な疾患は以下の3つです。
■シャイ・ドレーガー症候群
起立性低血圧や排尿障害、発汗低下などの自律神経症状が強く現れます。50代で発症することが多く、男性の患者数は女性の約3倍と言われています。
■線条体黒質変性症
筋肉のこわばりやふるえ、小刻み歩行になるなどのパーキンソン症状が強く現れます。50代での発症が多く、男性が発症する確率がやや高い傾向にあります。
■オリーブ橋小脳変性症
立っているときや歩いているときにふらつく、ろれつが回らない、うまく字が書けないなどの小脳症状が強く現れます。40歳以降で発症することが多く、男女比に差はありません。
⑫糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症は、糖尿病が進行して起こる三大合併症と言われており、それぞれの診断基準を満たすと特定疾病として認められます。
■糖尿病性神経障害
感覚神経、運動神経、自律神経のいずれかがダメージを受けることで症状が現れます。主な症状として、手足のしびれや痛み、立ちくらみなどがあります。症状の現れ方は、どの神経がどの程度傷ついたかによって異なります。
■糖尿病性腎症
腎臓の働きが低下してしまうことで、むくみや息切れ、食欲不振などの症状が見られるようになります。初期に自覚症状はないですが、進行して腎不全を引き起こすと吐き気や嘔吐、筋肉のこわばりなどの症状が現れます。
■糖尿病性網膜症
網膜の血管が傷ついて眼底出血する疾患で、初期の段階では自覚症状がありません。かなり進行してから、飛蚊症や視野が欠けるなどの症状が現れます。
⑬脳血管疾患
脳血管疾患とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など、脳血管の異常によって起こる疾患の総称のことです。
手足や顔の片側の麻痺やしびれ、記憶障害、言語障害、注意障害といった高次機能障害と呼ばれる症状が現れ、後遺症が残りやすいことが特徴です。どのような症状が現れるかについては、脳のどの部分がどの程度ダメージを受けたかによって異なります。脳血管疾患は60代以上の発症率が高く、高血圧や生活習慣病が原因であることが多いです。特定疾病として認められるのは、外傷が原因で発症したもの以外に限られ、症状や画像所見などから医師が診断します。
⑭閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化により足の血管が細くなる、詰まるなど血流が悪くなる病気のことです。
足先まで血液が届けられなくなり、足に冷感やしびれ、痛みが出ます。歩くと症状が現れ、少し休むと治まる間欠性跛行が見られるのが特徴です。症状が悪化すると、安静にしていても足に痛みを感じるようになり、最悪の場合は潰瘍や壊死で足を切断しなければならないこともあります。閉塞性動脈硬化症は、肥満、高血圧、喫煙などの生活習慣病が原因で発症することが多く、60歳以上の男性が発症しやすいと言われています。間欠性跛行、安静時の痛み、潰瘍、壊死といった状態であることが特定疾病の診断の基準になり、動脈硬化症による軽い症状だけでは特定疾病とはみなされません。
⑮慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患とは、肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎といった肺の働きが低下する病気の総称のことをいいます。
身体を動かすと息切れする、咳や痰が長く続くといった症状が見られ、ぜんそくのような症状が現れることもあります。主な原因は、長期にわたってたばこの煙を吸入することで、40歳以上の喫煙習慣がある男性の発症率が高くなっています。喫煙年数が長く、喫煙本数が多い人ほど発症するリスクが高まると言われています。喫煙以外には、大気汚染物質(排ガス、工場の煙、PM2.5など)や職業上の化学物質、粉塵などが原因となって発症することもあります。
⑯両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
変形性関節症になると、両側の膝関節・股関節が変形して動かしづらくなり、痛みや腫れなどの症状が現れます。
診断は、膝関節や股関節に著しい変形が見られるかどうかをレントゲン検査で確認するだけでなく、可動域や関節機能の判定基準を用いて行われます。変形性関節症は、関節の軟骨がすり減って炎症を起こすことが原因で、発症初期は動き始めに痛みを感じます。少し休むと痛みが和らぐため、病院を受診せずに放置してしまうケースが多いですが、進行すると階段の昇り降りが困難になる、歩くと常に痛みを伴うようになるなど日常生活に支障をきたします。40歳以降で発症することが多く、発症率は男性よりも女性の方が高いです。