よくあるご質問

介助者が行う準備・心構えについて

Q.

介護業界の人材不足における課題と対策

現在、日本の社会は超高齢化に突入しています。人口の高齢者数に比例するように介護を必要とする人も増え続けています。しかし、その高齢者を支える介護業界では慢性的な人材不足に陥っています。なぜ介護業界に人が集まらないのでしょうか?今回は人材不足の原因と、現在行政を主体に進められている人材不足の対策について紹介します。

増え続ける高齢者の人口

介護業界における人材不足の背景には、増え続ける高齢者の人口があります。総務省統計局によると、日本の総人口は、2008年をピークに年々減少し続けており、2018年の時点で1億2642万人と前年と比べると27万人減っています。一方、65歳以上の高齢者の人口は、1950年以降増え続けており、2012年にはじめて3000万人を超えました。2018年には3557万人と前年より44万人増加しています。つまり、総人口は減少しているものの、高齢者の人口は増え続けている社会的な背景があります。

出典:総務省統計局「1.高齢者の人口

介護を必要とする人も増えている

高齢者の数が増えるのに従って、介護を必要とする「要介護認定者」の数も右肩上がりで増加し続けています。経済産業省の「将来の介護需要に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」の報告書によると、2000年の256万人に対して2015年には620万人と2.4倍にも増え、このままの増加ペースでいくと、2030年には900万人を超えると予測されています。

出典:経済産業省 経済産業政策局 産業構造課「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会 報告書2018年4月9日」

介護業界には人材不足の現状がある

人口の高齢化と要介護認定者が増え続ける中、介護業界は慢性的な人材不足に陥っています。経済産業省の試算によると、高齢者をケアする介護職員数が、2035年の時点で79万人も不足する見込みです。また、介護職員は要介護者の他にも、そのご家族や医療スタッフなど様々な人たちと関わらなければなりません。介護現場では、「要介護者が言うことを聞いてくれない」、「他の医療スタッフと意見が合わない」など、仕事上の人間関係でストレスを感じている人も多く、最終的には仕事を続けることが困難になるケースも少なくありません。このような環境から人材がなかなか定着せず、介護業界では人材不足に陥っている現状があります。
参考:経済産業省 経済産業政策局 産業構造課「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会 報告書2018年4月9日」

【賃金の格差も人材不足の原因】

介護業界が人材不足である他の原因には、賃金の格差もあります。厚生労働省が行った、賃金構造基本統計調査(2017年)によると、統計データの17産業の平均月収が約30万円。最高が「電気・ガス・熱供給・水道業」の約40万円に対して、「介護職員」の平均月収は約24万円と全17産業で最下位でした。

出典:厚生労働省「一般労働者の産業別賃金水準(2017年)

今後の対策について

【賃金の改善】

こうした状況を打開し、介護人材の確保への取組みをより一層進めるため、厚生労働省では介護職員の処遇改善に努めています。特に経験や技能のある職員への処遇を重点的に改善しています。例えば介護サービス事業所における勤続年数が10年以上の介護福祉士に対して、月額平均8万円相当の賃金アップを前提に、公費1,000億円を投じています。

【外国人の採用】

また、人材不足の打開策としてEPA(経済連携協定)に基づく、EPA介護福祉士、つまり外国人の介護福祉士の採用にも取り組んでいます。
公益財団法人介護労働安定センターが行った、介護労働実態調査(2018年)では、外国人スタッフを受け入れている事業所は、全体の2.6%とまだ少数ですが、外国人スタッフを受け入れるにあたっての支障は少ないと感じている傾向にあります。また、現場スタッフにもアンケート調査を行ったところ、外国人スタッフがいる方が「職場に活気が出る」、「施設利用者が喜んでいる」等のポジティブな印象を持っていることが分かりました。今後も外国人スタッフの増加による人材不足の解消に期待が集まっています。

【介護ロボットの導入】

介護スタッフが集まらない理由の一つに、要介護者の車いすや便座への移乗、ベッドに寝かせる際の抱きかかえ等、介護スタッフの身体的負担が大きいことが上げられます。こうした負担を軽減する救世主として、多くの期待を集めているのが「介護ロボット」です。最近では介護ロボットを導入する施設も増えています。要介護者の移動サポート、排泄支援、認知症の見守り、歩行訓練サポートなど、様々なロボットが導入されています。また、介護ロボットの開発も盛んに行なわれており、厚生労働省が主体となって、経済産業省とも連携を取りながら進められています。厚生労働省では、介護現場におけるニーズの調査、試作ロボットの検証をメーカーへフィードバックし、経済産業省では、介護現場からのニーズを基にメーカーへのロボット開発や改良の支援を行っています。こうした連携によって介護ロボットの質も向上し続けています。しかしながら、導入できていない施設もあり、その理由として「導入する予算がない」など金銭面での不安を持つ施設もあるため、全ての施設で導入可能な経済的な支援が今後の課題です。介護ロボットについて詳しくは、「介護ロボットを導入すると何ができる?」をご覧ください。

以上、介護の人材不足における原因と今後の対策について紹介してきました。高齢者の数は今後も増え続け、避けて通ることはできませんが、高齢者を支える介護業界では、行政を主体に介護職員の確保や待遇改善、労働負担の軽減を目的とした施策も進んでいます。やがては私たち自身も直面するテーマですので、今後の動向にも注目です。

2020.07.16